コラム
カンテの基礎知識
185回 フラメンコの音響ー1
ずっとカンテの勉強方法についてお話ししてきたので、
今回からちょっと切り口を変えて、フラメンコの音響について
書いてみたいと思います。
フラメンコは電気的な音響設備を使わず、生音がいいんだ!
なんてお話を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。
確かに以前はスペインでも音響設備無しにライブをすることが一般的でした。
狭い空間で、ギター1人歌1人踊り手1人。
そんな出演者では、生音も可能かもしれません。
でも、現在は日本のほとんどの歌や踊りの公演と同じように、
スペインでもフラメンコ公演にはマイクやスピーカーが必需品となっています。
会場が広かったり、踊り手が大勢だったりすれば、
ギターやカンテにマイクをつけて音量をあげなければ、
バランスがとれないですから。
ただ、生音がいいという基本概念は変っていないので、
音響と言っても、音にエコーなどのエフェクトをかけることはなく、
単純に音量を上げて聞きやすくするだけ。
場合によっては、会場の建物によって自然にかかってしまうエフェクトを
打ち消すような音響をセットしたりしています。
(俗に言う逆位相です。ノイズリダクションのヘッドフォンなどと
同じ理屈でね。)
スペインで一番のフラメンコの音響さん、つまり世界一の音響と言えば、
セビリアのマエストランサ劇場の音響であることは、世界的にも有名です。
スペインのみでなく、世界中のフラメンコ公演を行う劇場から、
多くの音響マンが研修に来るんだそう。
実は、私もマエストランサ劇場の音響の方から、
フラメンコ用の音響に関する全3回の講習会を受けたことがあります。
今回のコラムは、その講習会で学んだことをベースに、
実際の公演体験を織り交ぜてお話ししたいと思います。
まずは、生音がいいという理由をご説明したいと思います。
フラメンコはご存じのように、今から120年ほど前に一般化し、
100年前にはすでに完成した音楽芸術(歌)です。
踊りがついたのはそのずっと後になりますので、
フラメンコの音響の基本的考え方は、カンテをもとにしています。
ところで、フラメンコファンの方には、
カラオケが好きな方も多いと思いますが、
カラオケのマイクを通すと、声にエコーがかかるようになっていますよね?
実は、歌い手自身が声にエコーをかけることも可能なんですが、
カラオケは基本的に素人さんが歌うものなので、
エコーを自分の声でコントロールするのは難しいと思います。
でも、エコーが綺麗にかかっていると、歌って上手に聞こえるんですよね。
なので、カラオケにはエコーがかけられるようになっていると思います。
でも、フラメンコの音響は素人の歌の為にあるものではありません。
あくまでもプロのカンテが歌うことを基準に考えられています。
カンテがショービジネスとして広まった今から100年以上前、
今のような便利な道具はまだありませんから、
エコーやビブラートなどのエフェクトは、
あくまでも歌い手本人が自分の技術でかけるものでした。
フラメンコの初期の歌い手達も、カンテのメロディをより魅力的にする為、
さまざまなエフェクトを自らかけて歌ったのだと思います。
そんな中、それぞれのカンテごとに、
どのエフェクトをどの部分にどのようにかけるのかが決まり、
そのエフェクト込みで各カンテが性格づけられていきました。
つまり、細かいメリスマ(こぶしのようなもの)を多用する曲種や、
様々なビブラートを盛り込んで歌う曲種、
逆に一切エフェクトをつけないで、
ストレートに歌うことでその曲らしさをだしたカンテなど、
カンテの曲種が増えると同時に、それぞれのカンテのエフェクトも
決まって行ったんです。
(メリスマを多用する曲油の例:グラナイーナ、マラゲーニャなど)
(ゆっくりしたビブラートを使う曲種の例:ソレア・デ・アルカラなど)
(まったくエフェクトなしで歌う曲種の例:アレグリアス、ガロティンなど)
これらカンテごとのエフェクトは、現在のカンテコンクールでも
審査対象になっていて、それぞれのカンテごとに決められたエフェクトが
ちゃんとかかっていないと、減点対象になってしまいますし、
歌い手が勝手に必要のないエフェクトを付けた場合も、
もちろん減点されてしまいます。
でも、もし音響さんがカンテにエフェクトをかけてしまったら
どうなるでしょう?
その歌い手が正確にビブラートやメリスマをかけていたとしても、
音響さんがかけたエフェクトによってマスキングされ、
聴き取ることは難しくなります。
ましてや、エフェクトを付けて歌ってはいけないカンテに、
音響さんがビブラートをかけてしまったら、
そのカンテの個性は台無しになってしまいますよね。
つまり、フラメンコにエフェクトをかけてはいけない理由は、
歌い手本人がエフェクトをコントロールしながら歌うことこそが
重要だからなんです。
そして、歌い手の技術がよりはっきりと観客に届くようにする為に、
会場の建物によって自然と掛かってしまうエフェクトを逆位相をかけて
打ち消すことまで、フラメンコ公演をよく行っている劇場では
気を配っています。
スペインに行かなくても、最近はマエストランサ劇場の公演も
YOUTUBEなどで公開されていることがあります。
もしそういう映像を見つけたら、音量を大きくしてよく聞いてみてください。
音の輪郭がかなりはっきりと聞こえるはずですから。
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ずっとカンテの勉強方法についてお話ししてきたので、今回からちょっと切り口を変えて、フラメンコの音響について書いてみたいと思います。
フラメンコは電気的な音響設備を使わず、生音がいいんだ!
なんてお話を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。
確かに以前はスペインでも音響設備無しにライブをすることが一般的でした。
狭い空間で、ギター1人歌1人踊り手1人。そんな出演者では、生音も可能かもしれません。
でも、現在は日本のほとんどの歌や踊りの公演と同じように、スペインでもフラメンコ公演にはマイクやスピーカーが必需品となっています。
会場が広かったり、踊り手が大勢だったりすれば、ギターやカンテにマイクをつけて音量をあげなければ、バランスがとれないですから。
ただ、生音がいいという基本概念は変っていないので、音響と言っても、音にエコーなどのエフェクトをかけることはなく、単純に音量を上げて聞きやすくするだけ。
場合によっては、会場の建物によって自然にかかってしまうエフェクトを打ち消すような音響をセットしたりしています。(俗に言う逆位相です。ノイズリダクションのヘッドフォンなどと同じ理屈でね。)
スペインで一番のフラメンコの音響さん、つまり世界一の音響と言えば、セビリアのマエストランサ劇場の音響であることは、世界的にも有名です。
スペインのみでなく、世界中のフラメンコ公演を行う劇場から、多くの音響マンが研修に来るんだそう。
実は、私もマエストランサ劇場の音響の方から、フラメンコ用の音響に関する全3回の講習会を受けたことがあります。
今回のコラムは、その講習会で学んだことをベースに、実際の公演体験を織り交ぜてお話ししたいと思います。
まずは、生音がいいという理由をご説明したいと思います。
フラメンコはご存じのように、今から120年ほど前に一般化し、100年前にはすでに完成した音楽芸術(歌)です。
踊りがついたのはそのずっと後になりますので、フラメンコの音響の基本的考え方は、カンテをもとにしています。
ところで、フラメンコファンの方には、カラオケが好きな方も多いと思いますが、カラオケのマイクを通すと、声にエコーがかかるようになっていますよね?
実は、歌い手自身が声にエコーをかけることも可能なんですが、カラオケは基本的に素人さんが歌うものなので、エコーを自分の声でコントロールするのは難しいと思います。
でも、エコーが綺麗にかかっていると、歌って上手に聞こえるんですよね。なので、カラオケにはエコーがかけられるようになっていると思います。
でも、フラメンコの音響は素人の歌の為にあるものではありません。あくまでもプロのカンテが歌うことを基準に考えられています。
カンテがショービジネスとして広まった今から100年以上前、今のような便利な道具はまだありませんから、エコーやビブラートなどのエフェクトは、あくまでも歌い手本人が自分の技術でかけるものでした。
フラメンコの初期の歌い手達も、カンテのメロディをより魅力的にする為、さまざまなエフェクトを自らかけて歌ったのだと思います。
そんな中、それぞれのカンテごとに、どのエフェクトをどの部分にどのようにかけるのかが決まり、そのエフェクト込みで各カンテが性格づけられていきました。
つまり、細かいメリスマ(こぶしのようなもの)を多用する曲種や、様々なビブラートを盛り込んで歌う曲種、逆に一切エフェクトをつけないで、ストレートに歌うことでその曲らしさをだしたカンテなど、カンテの曲種が増えると同時に、それぞれのカンテのエフェクトも決まって行ったんです。
(メリスマを多用する曲油の例:グラナイーナ、マラゲーニャなど)
(ゆっくりしたビブラートを使う曲種の例:ソレア・デ・アルカラなど)
(まったくエフェクトなしで歌う曲種の例:アレグリアス、ガロティンなど)
これらカンテごとのエフェクトは、現在のカンテコンクールでも審査対象になっていて、それぞれのカンテごとに決められたエフェクトがちゃんとかかっていないと、減点対象になってしまいますし、歌い手が勝手に必要のないエフェクトを付けた場合も、もちろん減点されてしまいます。
でも、もし音響さんがカンテにエフェクトをかけてしまったらどうなるでしょう?
その歌い手が正確にビブラートやメリスマをかけていたとしても、音響さんがかけたエフェクトによってマスキングされ、聴き取ることは難しくなります。
ましてや、エフェクトを付けて歌ってはいけないカンテに、音響さんがビブラートをかけてしまったら、そのカンテの個性は台無しになってしまいますよね。
つまり、フラメンコにエフェクトをかけてはいけない理由は、歌い手本人がエフェクトをコントロールしながら歌うことこそが重要だからなんです。
そして、歌い手の技術がよりはっきりと観客に届くようにする為に、会場の建物によって自然と掛かってしまうエフェクトを逆位相をかけて打ち消すことまで、フラメンコ公演をよく行っている劇場では気を配っています。
スペインに行かなくても、最近はマエストランサ劇場の公演もYOUTUBEなどで公開されていることがあります。
もしそういう映像を見つけたら、音量を大きくしてよく聞いてみてください。音の輪郭がかなりはっきりと聞こえるはずですから。
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